統計雑音(ノイズ)について
放射性同位元素の崩壊で放出されるガンマ線をシンチレータなどで検出すると、検出の度に電気パルスが出力されます。 このパルスの個数は1秒あたりのカウント数、つまり計数率(cps:カウント・パー・セック)で表します。
ガンマ線は、常に1秒あたり100 カウントというように、一定数が検出されるわけではありません。 このガンマ線の計数率は確率事象である崩壊の結果であり、時には101 cpsになったり、98 cpsになったりします。
放射性同位元素の崩壊からのガンマ線は、ほぼポアソン分布という確率分布に従います 。 このガンマ線が平均して1秒間にN カウントの割合で検出された場合、毎秒毎秒の検出数の変動(標準偏差=σ)は、σ=√Nとなります。 この計数率の変動を統計雑音(ノイズ)と言います。
Nが増えると、ノイズも増えますが、Nに対するノイズ幅の割合としては、√N/N=1/√Nとなります。つまり、Nの値が大きいと、ノイズの割合は小さくなります。
【例】
① 100CPSの時のノイズ √100/100 = 1/√100 = 1/10 = 10%
② 10,000CPS の時のノイズ √10,000/10,000 = 1/√10,000 = 1/100 = 1%
測定への影響
レベルスイッチ・レベル計・密度計は、全てエンプティ(測定対象物がないあるいは密度最低)状態の最大計数率(cps)を基準値(Io)にし、測定時の計数率(I)との割合で判定します。よって、Ioが大きいほど、ノイズの少ない測定が可能になり、精度の高い計測が可能となります。
レベルスイッチの線源強度・計数率比較
ガンマ線の計数率の差異による影響を比較します。目安として3σの位置を記載しています。 左のNが小さい方は、ばらつきが大きいため、測定中の計数率(I/Io)が、瞬間的にスイッチの動作点まで下がっています(➡部)。 これはタンクレベルスイッチで誤動作が発生している状態に相当します。 右のNが大きい方は、スイッチの動作点まで大きく離れているため、誤動作がなく安心して使えます。
小さい線源を使いたい
良くある対策は、平均化(=時定数を大きく設定=移動平均の時間を長く設定)による対策です。 ノイズが平均化されるので、一応は誤作動せずに使えるようになります。
※ 平均化計数率の99.7%がノイズの最大振幅:平均値―3σの範疇に入ります。 仮に0.3%の確率で発生する逸脱値が生じても、動作点ラインとの間が大きく離れているので誤作動が生じる可能性が大きく減少します。(左図参照)。
(なお、説明の便宜上3σとしましたが、実際の装置では、はるかに大きな値を使います)
101cpsや98cpsのように、計数率が毎回変動するとき、それらを10回分集めて平均すると、平均値の変動は元の1/√10と小さくなります(サンプル数と標本標準偏差の関係によるものです)。 一次フィルターの時定数を増やした場合も、平均数を増やしたのと似た効果があるため、10回分集めた平均とは効き方が異なりますが、やはり時定数τの1/√τで変動は小さくなります。
例えば、ノイズの標準偏差を1/10にして誤作動を無くす場合、時定数を100倍(=102)大きく設定します。 ただし、レベルスイッチの反応は遅くなり、従来は1秒で反応していたのが、100秒かかるようになります。 つまり、スイッチが動作点に達するまで、100秒間が必要となります。
このように平均化すると必ず時間遅れが発生するため、必要な応答速度が得られない場合があります。
性能を改善するには
ノイズを同じにした条件では、計数率Nの大小と時定数の長さは、相反する関係となります。 結論として、高い精度と応答性を実現するには、計数率Nを大きくすることが必要不可欠で、以下の2つの方法があります。
- 線源を交換して線源強度を大きくする。
同じ核種であれば、放射線源が1秒間に出すガンマ線の量≒ベクレル(Bq)数に比例して、N(cps)が大きくなります。
(線源カプセル内部の自己吸収が増えたりすると比例から若干減ります) - 線源を変更せずに、検出器を高感度型や超高感度型(Supersens™)に交換して検出効率を上げる
近年は、7割以上のお客様が、使用許可証の変更が発生する線源交換を避けて、既設線源はそのままに高感度型や超高感度型(Supersens™)検出器へ更新されています。製品は、 レベルスイッチ レベル計 をご覧ください。
※ 超高感度型(Supersens™):GM式検出器と比べ60倍以上高感度なので、60倍以上のNが期待できます。